競馬をやって何が悪い。〜予想は敗因分析から〜

菊花賞の出走予定馬展望が中心!今週あの人気馬はなぜ負けたのか? ラップとレース映像をリンクさせた詳細な敗因分析から競馬の真髄に迫る。 敗因分析できれば次買うべき馬が解る。競馬予想は回顧から始まる。

ディープインパクト安楽死…競馬の世界観を変えた圧倒的な追い込み馬

time 2019/08/02

 ディープインパクト号が先月30日に頸椎骨折による安楽死処分で急逝した。

 このニュースを最初に聞いたときは意外とそんなに驚きはなかった。今年のディープインパクトは種付けシーズンが始まってすぐぐらいに腰の具合が良くないということが分かり、以後種付けを中止していたからね。頸椎なので腰ではなく首になると思うが、そこの骨折で起立不能となって安楽死が取られたということになる。

 多分競馬ファンならば起立不能、という時点でいかに重篤かというのがわかってもらえると思うが、一般の人だとこれでなぜ安楽死処分が取られるのかが理解できないかもしれない。

 馬は立てないと苦しみながら死に至る。馬は歩くことで全身に血を巡らせることができるのだが、それができないと血が巡らない。つまりその部分が壊死する。苦しみながら死ぬのは必定である。

 関西のオールドファンならまず知っている馬がテンポイントになる。テンポイントは自分の父母世代の馬ではあるのだが、TTGの一角…有馬記念でトウショウボーイを撃破した関西のエース。もちろん競走成績も素晴らしいが重要なのはそこではない。テンポイントは蹄葉炎と戦った馬、そして蹄葉炎でもがき苦しんで死んだ馬なのである。

 日経新春杯のレース中に重度の骨折をした、その結果本来ならば即安楽死処分が望ましいという判断が下されたものの、当時の調教師が迷っているうちに助命嘆願の声が多数届いたとのこと。それによってかなり難しい戦いに挑むこととなる。手術を試みたものの結果失敗し、その脚を使えないことで他の脚に体重を余計にかけざるを得なくなる。結果、蹄葉炎を発症。結局は立てなくなるので横たわらせるしかない。後はどうしたって先述の通り全体の血流が悪くなるので衰弱しながら死ぬしかない。そうやってテンポイントは苦しみながら死んでいった。

 競走馬は比喩でもなんでもなく、四肢が命。ディープインパクトも立てなくなった時点で苦しみながらじわじわと死に至るか、もしくは苦しまずにすぐに死なせてやるか。ディープインパクトの場合は特に種牡馬としてはまさに金の生る木といっても過言ではない。社台スタリオンステーション・社台グループとしてもそれを安楽死処分とする、ということがいかにとんでもなく大きな損失なのかは、金額の問題だけではなく多くのダービー馬を輩出した2010年代日本で最高の種牡馬であることを考えても断腸の思いだったことは想像に難くない。安易に安楽死を選択などできようはずもない。ディープインパクト安楽死の経緯は競馬ファンとしてただ一言「是非もない」としか言えない。

 さて、まずは競馬ファン以外の人にディープインパクトの安楽死処分についてご理解をいただいたところで、ここからは自分らしくディープインパクトに対する思い出でも書いていこうか。

 彼の現役時代ははっきりとアンチだった。今の大人になってしまった自分ならば競馬界における至宝であり、とんでもない馬だったという認識は当然持てているが…当時のディープインパクトは社台ファームとの力関係が逆転しつつあったノーザンファーム生産、鞍上は武豊、調教師は池江父、スター街道を用意された存在という、斜に構えていた自分にとってはまさに天敵の存在だった。何とかディープインパクトが負ける姿を想像したかったが、結果としてディープが出たレースで当てることができたのはなかったと記憶している。そしてディープインパクトに本命を打ったのもただの一度、4歳時の有馬記念だけだったと記憶している。それぐらい、ディープに逆らい続けた競馬ファンだった。

 ただ、不思議な縁か、自分は関西在住で東京競馬場には実はいまだに1度しか行ったことがない。そのただの1度がディープインパクトの2005年日本ダービーだった。…これは結果的にそうなったというだけの話だが。実はこの時自分は、その年の青葉賞2着馬ニシノドコマデモの応援をしに行ったのである。キングヘイロー産駒最初の大物ということもあり、父が失速したダービーの舞台で父の汚名を雪ぐべくディープインパクトを負かす末脚を引き出してくれるだろう…と。もちろん直線大外から伸びてきたのはニシノドコマデモではなくご存じディープインパクトである。現実的では全然なかったが、個人的には東京競馬場のすばらしさを満喫できたし、当時ただの無敗の皐月賞馬であるディープインパクトの銅像を見ることもできた…皮肉だが。余計にアンチディープにはなってしまったが、今は当然競走馬としてのディープインパクトを高く評価している。

 能力面に関してはやり出すと語りつくせないので、敢えて自分の中でのディープインパクトのベストバウトを挙げるとすれば天皇賞春である。これは正直自分の中では抜けている。

3:13.4R
13.0 – 11.7 – 11.5 – 11.9 – 12.2 – 12.2 – 12.0 – 13.2 – 12.6 – 12.7 – 12.9 – 12.7 – 11.3 – 11.0 – 11.2 – 11.3

 当時のレコードタイムを更新したわけだが、レースラップを見てもらえればわかる通り、まさに後半4Fが異次元。超高速馬場ではあったのだが3~4角で11.3-11.0と相当速いラップを刻んでいる。ディープはここで自分の中での淀の長丁場でのタブーを冒し、そして見事打ち勝った。しかも完勝であると。映像的なインパクトだと4歳時の有馬記念や宝塚記念なんかも十分なのだが、ラップ的なものも踏まえて考えたときに、名実ともにベストパフォーマンスといえるのはこの天皇賞春だ。

 化け物だと思ったポイントは3角である。正直に言えば今の武豊ならもっと早い段階で動いていたんじゃないか?と感じる。今自分の考え方で見直したときに、非常に効率の悪い動きになった。3角の地点までに中弛みが生じていて動くタイミングはあったのだが豊としては迷いが生じていて動くのか動かないのか、緩んで馬群が凝縮する中でワンテンポ遅れている。結果として3コーナー地点で動いたタイミングではまだ捲り切れていない、坂の下りで各馬がペースを引き上げたことで3コーナー地点では相当外を回している。この地点が11.3ということを考えてもかなりのロスがある。それでも4角では前に出切って内に切り込みながら最速11.0のラップを踏む。そこでスピードに乗って4角出口が急という中で遠心力も相当働いたと思うが、そこから直線にかけてほとんど減速せず、追撃を許さずじわじわと後続を離した。

 こんな競馬はディープインパクトぐらいしか成立しないと思っている。まあディープとは少し展開、競馬の仕方が違ったが、離れた逃げ馬を追いかけて3~4角で外を回して無理にトップスピードに乗せてしまったオルフェーヴルは4角出口で遠心力に負けて外に膨れるだけでなくバランスを崩してそこで脚を終わらせてしまっている。三冠馬でも一つ間違えると難しい競馬になるのが高速京都の長丁場である。この競馬で最後まで脚を使ってきたというのはちょっと尋常ではないなと。

 ディープインパクトは不安定な追い込みという脚質で安定と破壊力の両面を持ち合わせていたといえる。その根幹にあったのが究極レベルのロングスプリント能力だろうとみていて、その最たる例が先述の天皇賞春だといえる。ディープインパクトは当時では破格の上がりを繰り出していたと思うが、実は瞬間的なトップスピードの質というのはそこまで抜きんでていなかったと思う。ディープインパクトが凄いのは4~5Fを11秒前後で踏み続けてくる。これが最大の持ち味で、恐らく効率よく速いラップを連続できる走りだったのだろうと。大跳びでかつピッチも速い。それを長時間維持してくる。完全なる無酸素運動状態でそれを続けるというのはいくら何でも難しい。恐らく準無酸素運動…いわゆるロングスプリント状態でこれだけのラップを踏み続けることができる。しかもコーナリングが相当うまい。ディープは東京のイメージよりもどちらかというと京都や中山でコーナーで動くイメージの方が強く、特に最後の有馬記念の4コーナーでの速度感は尋常ではなかった。コーナリングの上手さとロングスプリントの異常さの両方が噛み合ったことで平成最強馬が生み出されたのかなと。

 そういう意味では実は最近の競馬に通じるところではある。アーモンドアイもキセキもそうだが、中間的な状況で速いラップを連続するロングスプリント能力に長けている。その走りがまさにディープインパクトだったのかもしれない。当時サンデーサイレンス全盛期、上がり3Fの競馬から最初に脱却したのは実はディープインパクトだったと個人的には思っている。そういう意味でもあらゆる競馬の常識を覆してきた、能力面では認めざるを得ない。とんでもない馬だったことは間違いない。

 そんなディープインパクトだが、語る以上触れなければいけないのが凱旋門賞の失格だろう。日本が誇る無敗の三冠馬、有馬記念で土こそついたが4歳時に圧倒的なパフォーマンスを見せ続けて明らかに進化していたそのディープが敗れた。しかもその後にまさに競馬界を大きく震撼させる、ドーピング疑惑による失格というニュース速報が流れた。

 ショックだったし、なんてことをしてくれたんだと。ディープインパクトの人気がまさに絶頂だったころ。そして凱旋門賞制覇を初めて現実的なものとしてみていた競馬ファンのすべてを裏切る行為となってしまった。もちろん池江師ら含めて陣営にも言い分はあるだろうし、フランス側の何らかの謀略が働いた可能性も全く排除はできない(由緒ある欧州競馬の象徴で欧州馬以外は勝っていない…もちろん可能性はゼロではないというだけ)。ただ、結果として凱旋門賞で禁止薬物イプラトロピウム検出により失格というのは、ディープだけでなく日本競馬にとってもとてつもなく大きな打撃となった。

 そして、個人的にもこれは全く引っかからないというものではない。ディープインパクトは3歳時に無敗の三冠を成し遂げたが、個人的には明らかに4歳時にパフォーマンスが上がっていたと感じる。先述の天皇賞春もそうだし、宝塚、有馬記念は圧倒的だった。このパフォーマンスにも疑惑が向けられることとなる。イプラトロピウムは気管支を広げる効能を持つので、ロングスプリント能力と直結する部分があると考えていいだろう。長くとんでもない脚を使える競馬の常識を超えたディープインパクトの存在が皮肉にもイプラトロピウムの日常的な服用を現実的に臭わせてしまう部分がある。もちろんイプラトロピウム自体の服用が悪いのではなく喉に対する治療薬としてはフランスでも認められている。その薬が抜けていない状況での出走がフランスでは禁じられていたということ。また日本では当時レースにおいてもイプラトロピウムは禁止薬物ではなかった。理解できる面もあるが、ただ一つ確実に言えるのは、凱旋門賞でディープインパクトから禁止薬物が検出されたことで失格したということ。これはやっぱりどうしたって脳裏について回ってしまう。本当に申し訳ないが、この時点ではホワイトとは言い切れない面がどうしてもある。

 それを払拭するには遺伝子レベルで本物であったことを証明するしかない。ディープインパクトはそれに成功した。父を超える馬という点では難しいが、それでもジェンティルドンナがGI7勝を果たし、キズナ、ワグネリアン、マカヒキ、ディープブリランテら数々のダービー馬を輩出してきた。種牡馬としても父サンデーサイレンスに匹敵する成績を残してくれた。ディープインパクトは本物だったということをそこで証明してくれたのではないかと自分は思っている。

 ディープインパクト…馬なりで3~4コーナーを上がっていくあのわくわく感。天皇賞春で見せた暴力的なラップ。平成を代表する日本の名馬であることは疑う余地もない。残された産駒から凱旋門賞の舞台で父の汚名を雪ぐ馬が出てくることを切に願う。平成を駆け抜け、令和の時代を子孫に託し、稀代の追い込み馬ディープインパクトよ、安らかに眠れ。

競馬をやって何が悪い。分析note…弥生賞から高松宮記念まで!



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