競馬をやって何が悪い。〜予想は敗因分析から〜

菊花賞の出走予定馬展望が中心!今週あの人気馬はなぜ負けたのか? ラップとレース映像をリンクさせた詳細な敗因分析から競馬の真髄に迫る。 敗因分析できれば次買うべき馬が解る。競馬予想は回顧から始まる。

日本ダービーを制した福永祐一…キングヘイローからワグネリアンへ

time 2018/05/28

ダービージョッキー福永祐一

昨日の日本ダービーで念願のダービージョッキーとなることができたのが福永祐一。苦労して不惑を迎えてダービーを制覇する、というのはこれまでの歴史からも少なくない。柴田政人、河内洋、最近ならば横山典弘だろう。武豊はダービーを取れないといわれていたが、20代でのダービー制覇は本来であれば順風満帆といっていい。福永祐一はある種、人並み以上の苦労を経てようやくダービージョッキーという栄冠にたどり着いたといってもいいのだろう。

日本ダービーが終わり、ワグネリアンが一番にゴールを駆け抜けてからの福永祐一はどこか懐かしい福永祐一だった。既視感があるというよりは、むしろ帰ってきたという感覚の方が正しいか。福永祐一はようやく今、福永祐一になったのではないか、という感情が下りてきた。他の何物でもない福永祐一である。これを確固たるものにできた瞬間だったかもしれない。

筆者の競馬歴と重ねたときに、福永祐一はほぼデビューから見ているということになる。競馬自体ブームになりつつあった、ダビスタ・マキバオーといったところから競馬に入った人も少なくないだろう。そして何といっても天才武豊。オグリブームから競馬の第一人者を背負い続けた天才とともに競馬人気は醸成されてきた。その中で1996年にデビュー。トロットサンダーの安田記念で決定的に競馬にはまった筆者としては、デビューの瞬間そのものは実ははっきりとは覚えていない。ただし、初年度の福永祐一はしっかりとみてきた。そして何よりも2年目となる1997年に筆者もだが福永祐一にとっても最大で決定的な出会いが訪れることとなる。

キングヘイローとの出会い

当時は天才武豊を中心に競馬が回っていた。実はキングヘイローも最初は武豊に騎乗依頼を…というところから都合が合わないところ、福永祐一に騎乗依頼が舞い込んできた。そこで福永はクラシックを…ダービーを初めて意識することになったはずだ。東スポ杯まで無傷の3連勝、福永自身もここで初重賞制覇を成し遂げた。当時のラジオたんぱ杯でロードアックスにまさかの敗戦を喫したが、弥生賞3着、皐月賞2着。セイウンスカイ、スペシャルウィークと3強を形成するに至った。

事件はまさに日本ダービーで起こった。これまでは先行策をとっていたものの、この大舞台で誰もが目を疑う逃げる競馬を展開。直線ではあっさりと下がってしまって14着に沈んでしまったのだ。日本ダービーで2番人気に支持されながら大敗を喫し、しかもこれまでのスタンスを崩す形となってのもの。これが福永祐一のその後に大きく影響を及ぼしたことは確かだろう。

キングヘイローとのコンビは他の騎手との比較でみても実は一番安定していた。神戸新聞杯では岡部が乗って格下相手に3着も京都新聞杯では再び福永に戻り、ダービー馬スペシャルウィークを相手に気迫のこもった騎乗で僅差の2着。これだけ長く競馬を見てきても、個人的に福永の騎乗で一番好き(上手いではない)な騎乗はこの京都新聞杯2着。柴田善臣に主戦が移ってからも、マイルCS、スプリンターズSなど戻ってきたときには何度も善戦するがGIを勝つところまでには至らなかった

キングヘイローの呪い

そして福永にとって決定的な決別が訪れるのである。舞台は高松宮記念。幾度となくGIに挑戦し続けたキングヘイローの背には主戦となった柴田善臣。人としても初GI制覇を狙う福永はディヴァインライトに跨った。内から完璧にさばいて直線で抜け出し勝てるか?と福永が一瞬感じたその外に『一番いてほしくない馬』が一気にまとめてなでぎった。

キングヘイローである

これによって福永祐一の手でキングヘイローにGI初勝利を、という思いは断たれた。これは完全に推測になるが、自身のGI初制覇のチャンスを逸したという思いよりも前述する思いの方が強かったのではないか?と感じている。その後安田記念で一度戻ってきて3着と結果は残すものの、彼にとってこれが最後のキングヘイロー騎乗となった。

その年の有馬記念で関西ローカルの番組の中で、有馬記念に乗れない騎手にアンケートをとっていた。

有馬記念、どの馬に乗りたい?

ほとんどの騎手が絶対王者テイエムオペラオーやメイショウドトウと答えていた中で福永祐一の答えは一点の曇りもなくキングヘイローだった。この福永祐一が本来の福永祐一であると筆者は今でも思っている。本当はすごく熱い漢なのだ、彼は。

武豊と福永洋一を背負う福永祐一

その後はプリモディーネで桜花賞を制しGI初制覇を果たすと、順調に頭角を現していく。ただし、牡馬クラシックに関してはつくづく縁がない。エピファネイアの菊花賞でようやく牡馬クラシックを制したのが2013年…30代も半ばになってのものだ。川田や池添ら後輩たちがダービージョッキーになっていく姿を見ながら、どこかで平静を装う福永祐一がいた。あの若いころの熱い福永から考えると、どこか冷めた福永祐一となっていた。

福永祐一はとにかく重いものを背負っている。なにせ父が稀代の天才福永洋一であり、福永祐一がデビューを果たしたころにはすでに天才武豊が競馬会を背負って突っ走っていた。この2人の天才と否応なしに比較される立場となった福永の心情は察するに余りあるところだろう。自身は大舞台で勝ち切れずにもがく立場の中で、川田はダービージョッキーに、池添は三冠馬の主戦。武豊に至ってはダービーを5勝もする、さらに異国からルメール・デムーロが日本にやってきた。内心穏やかではなかったはずだ。

福永祐一が捨てた福永祐一

今年のダービーで一番感じたことは、とにかく福永らしくない。とにかく馬をコントロールして、鞍上の支配下におさめる。折り合いを意識してとにかく自分の意のままに進めたい。馬を頼るという選択をこれまであまり取れなかった。しかしダービーという大舞台は全ての騎手が勝負を仕掛けてくる。その中で、馬に頼らず流れに沿って進めていくだけでは馬の全能力を発揮するというところまでいかないことが多いだろう。

今年は違う。今年は攻めた。大外8枠を引き当てたこともあっただろうが、折り合いを信じて、この馬の能力を信じて最序盤からポジションを取った。そこからの流れに関しては正直天の采配、明確にスローになったことで前半を楽に良い位置で運ぶことができた。早めに仕掛けたコズミックフォースの後ろでついていって出し切れた。まさにすべてがかみ合った。しかしその全てをかみ合わせたのが序盤のポジション取り。つまり福永の積極策が全てを噛み合わせるきっかけを作ったのである。勝つべくして勝つ、その結果のダービージョッキーで、昨日の福永の騎乗はまさにそれにふさわしい素晴らしい騎乗だった。これまでの自分の騎乗スタイルから決別する積極的な競馬が結果として彼をダービージョッキーにまで成長させた最大の要因だと思う。

福永にはこれまでの人生において、ある種の修飾語が常に付きまとうことになっていた。福永洋一の息子、天才武豊の後継者、ダービーとは縁のない男。いくらGIを勝ってもリーディングを取っても、天才武豊、そして父である天才福永洋一の前には恐縮してしまうし、周りも素直には評価してくれない。しかし、この日本ダービー制覇で本人がどう思うかは別にして、『福永洋一を超えた』のである。あの時代の関西所属騎手がダービーを取るのは難しい、とかもちろん状況が違うのは間違いない。一つ言えるのは、天才福永洋一が成し遂げられなかったダービー制覇を成し遂げたことで、初めて福永祐一が福永祐一となった…といっても良いのかもしれない。

そしてあの勝利ジョッキーインタビューである。これまで幾度となくGIを制覇してきた福永が、ダービーを勝った時のインタビューではまさに言葉にならない、という感じ。ただ、不思議と違和感がなく受け止めることができたのは、これが本来の福永祐一だったんじゃないかなと。ダービーを制すまでに20年以上かかったという苦労もだが、一番は背負ってきたものから解放されたというのが大きかったような気がする。

キングヘイローから見続けてきた競馬ファンとして

最後にキングヘイローと福永祐一というコンビを見続けてきた自分として今の心境を。まず本当におめでとうございます。今回のワグネリアンの勝利はそれこそキングヘイローでやってしまった逃げの手で失敗したトラウマをようやく払拭できた、折り合いではなくポジションをとって何としても折り合わせる。馬と自分を信じることが出来たからこその勝利ではないか、と感じる。ここにきて本来の意味でようやくキングヘイローの呪縛から解き放たれたのではないかなと。自覚してか無自覚でかは分からないけど、多分福永の折り合い重視の根本はキングヘイローのダービーが根強く残っていたからだと思うし、それを振り払えた。多分キングヘイローは北海道で芝を食みながら「ようやく勝ったか~」ぐらいの気持ちでいるんじゃないかな。スペシャルウィーク、テイエムオペラオーも亡くなり、この世代の競走馬たちもそろそろ心配な年齢になってきた。ダービーを勝ったわけだし、勝ったよってキングヘイローに報告してあげてほしいです。

そして、これは個人的な感想だが何度も言うようにキングヘイローと一番合っていたのは今でも福永だと思っている。ダービーでは確かに逃げて沈んだ、当時岡部が何か言っていたとか、今でも藤田が言っていたりとか。下手だとかああだとか言う人はいると思う。自分は馬には乗れないから馬乗りとしての上手い下手はよくわからない。だけど、もうちょっと自信を持っていいんだと思う。特に近年の福永を見ていて何かちょっと無理しているというか、ちょっと小難しい感じの人になっていってしまってもどかしく思っていた。いつまでも若いままではいられないが、ダービーのインタビューでは破顔というか、本当にくしゃくしゃになっていた。でもそんな福永が自分は一番好きかな。スタートも上手いし折り合いも上手いんだからもっと出していって、壁がなくても折り合わせるぐらいの達人を目指していいんじゃないかな。人とは違う部分を極めていってほしい。ダービージョッキー福永祐一の今後の活躍、そして事故が無いことを祈りながら駄文を終わらせていただきます。

 

何悪。分析note2023



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